高齢者のゴミ屋敷問題の最も根深くそして悲しい背景の一つが「セルフネグレクト(自己放任)」です。これは生きる意欲を失い、自分自身の健康や安全に関わる基本的な行為を放棄してしまう状態を指します。ゴミ屋敷はこのセルフネグレクトが極限まで進行した目に見えるSOSサインなのです。セルフネグレクトに陥る最大の引き金は社会的孤立です。長年連れ添った配偶者との死別、親しい友人たちの他界、そして退職による社会との繋がりの喪失。こうした人生の大きな節目において深い孤独感や喪失感に襲われた時、高齢者は生きる目的を見失ってしまうことがあります。「もう自分は誰からも必要とされていない」「この先生きていても何の意味もない」。そんな絶望感が心を支配し徐々に自分自身の世話をすることをやめてしまうのです。最初は入浴や着替えが面倒になるといった些細なことから始まります。次に食事の準備が億劫になり栄養状態が悪化します。そして部屋の掃除やゴミ出しといった生活環境を維持するための行為を完全に放棄してしまいます。部屋がゴミで埋まっても悪臭がしてもそれを不快だと感じる心の働きすら麻痺してしまうのです。本人にとってはゴミの山こそが外界の煩わしさから自分を守ってくれる最後の砦のようになっている場合さえあります。この状態は単なる「無気力」とは全く異なります。それはうつ病などの精神疾患が背景にあることが多く、専門的な医療の介入が不可欠です。またセルフネグレクトに陥った人は自ら助けを求めることが極めて困難です。そのため周囲の人間がその変化にいち早く気づき支援の手に繋げてあげることが何よりも重要となります。郵便受けに新聞が溜まっている、身なりに構わなくなった、カーテンが一日中閉まっている。こうした小さなサインを見逃さず地域の民生委員や地域包括支援センターに相談すること。そのささやかなお節介が、一人の高齢者の命と尊厳を救うことに繋がるのです。
セルフネグレクト!孤独な高齢者のSOS